姉と二人、ジェラベルンの貧民街で暮らしていた彼女だったが、姉が領主に見初められて以来、その人生が一変する。
屋根のある寝床、毎日の糧の心配をする必要のない日々。それは夢のような暮らしであった。
だが他人にかしずかれる事に慣れなかった彼女は、義兄に頼んで町の一角に家を用意してもらい、そこで慎ましく暮らしていく事を選ぶ。
彼女が姉の変化に気付いたのは、それから少ししての事であった。
裕福な生活に慣れていなかったためか、それとも己の過去を消し去りたかったのか、姉は貧民街に対して圧力をかけるようになっていった。
特に夫が亡くなってからはその行動が顕著になり、実の妹である彼女の事まで避けるようになったかと思うと、かつて暮らしていた貧民街に対する焼き討ちさえも行うようになったのである。
姉の行為に心を痛めた彼女は、盗賊ギルドの手引きによって、姉と入れ変わる事を決意する。
その後、彼女によって統治される事になったジェラベルンは、少々の治安の低下と引き換えに安定の日々を迎える事になる。
大陸暦802年、何故か盗賊ギルドのアジトに火を放った彼女は、ギルドの大半のメンバーと共に焼死。
表向きには、御忍びで向かった演劇場の火事に巻き込まれたとして処理された。